「劇場版ポケットモンスター 結晶塔の帝王 エンテイ」(2000)はポケモン映画シリーズの第3作目の作品です。
興行収入は48.5億円。今作からは「金・銀」編となっており、キャッチコピーは「誰も知らない金と銀の世界をかけろ!」となっています。
「結晶塔の帝王」を見たことがなかったので、今回は見てみた感想、考察、レビューを行っていきたいと思います。
「結晶塔の帝王」感想・考察
少女の願いが生んだ幻の世界
今作は「ミー」という少女の寂しい思いや願いがアンノーンによって具現化したという話。
悪い大人がいるとかそういう感じではなく、幻の世界に閉ざされた少女を救うという、空想的な世界観となっています。
また、アンノーンの動きなどはCGっぽい動きになっていて、前作の「ルギア爆誕」に比べてグラフィックも進化したのかなあという印象を持ちました。
父親に会えずに落ち込んだミーがアンノーンの小さな石板を手にすると青紫色の結晶で屋敷が覆われていきます。
最初は何が起こっているかよくわからないのですが、青紫色の結晶はダークな雰囲気を与えており、少女の暗い気持ちを表していたのでしょう。
そして、ミー、エンテイとサトシたちの思いが交錯する展開となっており、過去2作とはまた違った味わいが楽しめます。
エンテイの正体は父親
今作のタイトルのエンテイが登場しますが、今作もまたポケモンが言葉を話しました。
しかも、ミーはエンテイを見た途端に父親だと確信している様子。
なんでそんなことがわかるんだ?
と最初はなりますが、話が進んでみるとミーが生み出した幻の存在ということがわかり納得できます。
タイトルは「結晶塔の帝王」となっていますが、結晶塔はともかく帝王感はないですね。
ただ、伝説のポケモンとあって強さの象徴として描かれているのでしょう。
ゲスト声優も増えた
サトシたちはカスミ、タケシと冒険をしている途中でリンというトレーナーに遭遇しいきなりバトル。
ポケモン映画も「ドラえもん」や「名探偵コナン」などの他のアニメ映画同様にゲスト声優が起用されはじめたことに気づきました。
まあ、リンはそこまで出番がなかったのと個人的にはまだ許容範囲なのでいいかって感じです。加藤あいという女優の方のようです。
ちなみに、エンテイの声もゲスト声優で竹中直人氏が演じていましたがこちらは全く違和感がなかったですね。
サトシのママが活躍
そして、「ルギア爆誕」と同様にサトシのママが登場。今作はよりストーリーに関わってきたので意外でした。
サトシたちがやってきたグリーンフィールドの怪現象を案じてオーキド博士とともにやってきたママ。
ママはエンテイに暗示をかけられて連れ去られ、サトシはそれを追いますが、ミーの寂しいシーンをみると複雑・・・
他人の母を強奪するのはもってのほかですが、「どうやって収めるんだろう」というモヤモヤ感。
父や母に会えない寂しさをどう埋めるのか?
サトシのママが暗示から解かれたときは、ミーのママであることを否定はしていませんでした。
ミーの気持ちもわかったのか、しばらくはそのままでいるところに優しさが見えます。
しかし、当然ながらそのままでいいわけがない。
現実を突き付けていいのかという葛藤はママにはありませんでした。いや、少しはあったのかもしれません。
ミーのためには言いにくいことでも、言うべきことはしっかり言う。
そんなママの信念や強さが見れたシーンではないでしょうか?
前作「ルギア爆誕」のラストでも、深そうな言葉をサトシにかけていましたし、サトシのママからは人生のベテラン感が出てますね。
タケシ、カスミに見せ場あり
今作ではタケシ、カスミのポケモンバトルシーンがあります。
この二人はサトシと旅を共にする仲間。ですが、過去2作では目立った活躍は正直なかったと言っていいでしょう。
「ルギア爆誕」のカスミは、フルーラとのやり取りはあったのですが、世界を救うという意味での貢献は泳いでサトシを助けたという程度でしたから。
タケシ、カスミはポケモントレーナーだし、ポケモンの活躍が見せ切れていないというのは制作側にもあったのかもしれません。
ドラえもんでいったら、
「ドラえもん、のび太は活躍しているが、ジャイアン、スネ夫あたりが空気」
みたいなものでしょう。
ミーの願いのポケモンバトルを叶えるために、二人はミーと対決。その姿は非常にたのしげでした。
姿を変えるミーの心は
ミーはタケシ、カスミとバトルする際に姿を変えます。
ミーが「今は小さいけれど大きくなったらできるよね。」とポケモンバトルに対する不安を語っていたことによるものでしょう。
まだ、小さい自分に対する不安が見えます。
ということで大きくなった状態になりますが、「小さいから・・・」という不安を脱却する描写が見て取れるんですよね。
そのときにミーが「小さいからって油断したらダメ」みたいな趣旨の発言をしています。
ミーが小さいか大きいかを気にしていることが伺えます。
そして、カスミとの闘いの前にカスミのような年齢でもジムリーダーになれるという話を聞き、ミーはカスミと同じ年齢の姿になりました。
このあたりでミーは「大人でなくても強いポケモントレーナーになれる」という気づきになっていたのかもしれません。
そして、このバトルに勝利し、ミーに勇気を与えたのでしょう。
ミーは最初、大きくならないと強いポケモントレーナーになれないと言いましたが、それを聞いていたエンテイは否定しませんでした。
それをエンテイは望むなら何でもできるとしか言わない。
エンテイは望むなら何でも願いが叶う幻の世界を肯定する姿勢が見えます。
あとどうでもいいですが、カスミのトサキントで笑ってしまいました。
「トサァ・・・」
サトシの冒険に対する信念が見えた
サトシはミーのもとへたどり着き説得しますが、エンテイがミーの願いをかなえるためにサトシと戦います。
このシーンではリザードンとサトシVSエンテイという構図となっており、結晶塔を飛び回るアクション要素に気分が高まります。
そして、エンテイのやり方が間違っていることを告げるサトシ。
「父や母にすがり幻の世界に閉じこもっているだけではいけない」ことを教えてくれます。
サトシもマサラタウンから一人で飛び出し、カスミやタケシと出会いました。
外の世界へ旅立ち仲間とともに進んでいくということを実際にやってきたサトシの言葉は重みがあったのでしょう。
ミーもカスミやタケシからポケモンバトルで得た仲間の尊さに気づきます。
親の元を離れ、幼稚園や学校などの外の世界に歩き出すときは誰しもあるでしょう。
中には寂しさのあまり、親にすがり続ける子供もいるでしょう。
この映画ではそんな子供の心をテーマにしたのでしょうね。
旅立つことに勇気を与えるサトシの矜持が出ていて、サトシの信念を見せた作品だと感じました。
サトシのママはミーの持っていた絵本を見るシーンがありましたが、幻の世界で起きたことはその絵本の内容と一致していました。
ママもミーの心の叫びを感じ取り、外の世界へ踏み出すことへの後押しをしたのでしょう。
サトシの冒険を後押しした人ですからね。サトシと同様の信念があったのでしょう。
サトシの仲間がサトシを助けるシーンが、ついにミーの心を動かし、ミーはエンテイに「やめて!」と告げます。
親としての在り方を問う
エンテイは父としてミーのためを思っていたはずが、それを否定されてしまいました。
親の気持ちとして、「自分は間違っていた・・・」とショックな感情が見えます。
子供の願いをそのままかなえることだけが親として正しいわけではないんですね。
親としての在り方についてもこの映画はテーマにある気がしました。
しかし、幻の世界から抜け出せず、クライマックスでエンテイの見せ場が。
ミーが「がんばって!」と叫んだところは泣きそうになりましたね。
年を取ると、こういう父親を応援する娘のシーンとかはヤバいです。
ロケット団も存在感を見せた
が、シリアスな空気を和らげてくれるいい存在でありますし、塔から落ちそうになるサトシを助けるシーンは、彼らの良さが出ていていいシーンですね。
そして、エンディング前の「いい感じー」はしまりますねえ。大団円感があって。
ミーの母親の謎
ところで、この映画を観ると誰しも気になるのがミーの母親のこと。
家族で写真に写っているのはチラッと見ることはできるのですが、ミーの母親がなぜいないのかが作品中では明らかになっていません。
そして、エンディングの映像の際にミーの父親が女性を連れてきており、それにミーも反応していました。
となると・・・
ミーの母親は死んでいて、新しい母親ができたと捉えるのが自然でしょうか。
映画の中身だけだと情報がなさ過ぎて、この程度の想像しかできませんでした。
ちなみに、脚本の首藤剛志のコラムによると、この女性はミーの実の母親ということらしいです。わかるわけ・・
その女性が誰であるかわからないので、文章は、第1稿を直した共作者にお願いした。
彼の書いた文章には、その女性はミーが孤独だったときに、病気で入院していた実の母親だとあった。びっくりした。
http://www.style.fm/as/05_column/shudo213.shtml
「結晶塔の帝王」感想・考察まとめ
「結晶塔の帝王 エンテイ」はミーという少女やサトシたちの信念がぶつかった作品という印象でした。
親となかなか触れ合えずに寂しい思いをする少女の心をどう晴らすか。
そんな少女の心を具現化した世界で、サトシの冒険に対する信念が少女を変えていく展開が見どころです。
親の元を離れ、仲間とともに冒険していくサトシの矜持が見ることができます。
テーマ性もありながら、タケシやカスミの出番もあり、見ごたえがある作品です。
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